粘って粘って宮崎県勢初の優勝をもぎ取った。どちらが勝っても初優勝となる対戦で、鵬翔(宮崎)が2‐2で迎えたPK戦で京都橘(京都)を5‐3で下し、初優勝を果たした。1大会4回のPK勝ちは史上初。前半41分に先制され、追いついた後の後半19分に勝ち越される苦しい展開だったが、後半39分にMF矢野大樹(3年)が同点PKを決める執念を見せた。どんなに劣勢に立ってもあきらめない気持ちが、神懸かり的な快挙をたぐり寄せた。
修羅場には慣れていた。今大会4度目のPK戦。4人が決めて迎えた5人目のGK浅田が思い切りゴール左下にシュートを流し込むと、たちまち選手全員がなだれ込んできた。「選手たちは気持ちが強い子ばかり。最高です」。約30年間も鵬翔を率いてきた松崎監督の声はかれていた。
後半19分、相手のWエースの一角・仙頭に勝ち越し弾を決められても、決してあきらめなかった。ハーフタイムに投入されたMF中浜は、12月に半月板の手術を受けた左ひざに不安を抱えたまま、65分間走りきった。なだれ込んだPK戦の前には矢野主将が「夏の合宿の方がきつかった。こっち(試合)の方が楽しい」と仲間を盛り上げた。
「あれは地獄でした」‐。そう語る選手もいた夏の合宿は鹿児島県志布志市で行われた。300メートルのコースを40秒の時間制限をつけて走る。約10キロの長いコースをまた走る。3泊4日の日程は走るメニューで埋まった。今大会4度のPK戦では延べ21人中18人が成功している。地獄の練習で鍛えた心は土壇場でも揺るがなかった。
スタンドには部員47人、希望した生徒約60人が駆けつけた。バス4台に分乗、前日午後1時に宮崎市を出発してから約18時間もかかった。雪による決勝延期で、数百万円規模の余分にかかる経費は地元企業の寄付や街頭募金で賄った。学校の、県全体の期待に応えないわけにはいかなかった。
鵬翔高校がある宮崎市の戸敷正市長は「市内の中心部で盛大にやりたいね。みんな大注目をしているから」と優勝パレードの開催を明言した。プロ内定者ゼロのダークホースが、我慢の末に栄冠をつかんだ