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【高校選手権】高校サッカー頂点は鵬翔か京都橘か? 順延後、2つの選択に隠された意図。

「ええっ! 国立まで来たのに、中止になっちゃうの!」

 1月14日「成人の日」、東京・国立競技場の千駄ヶ谷門では、先着3000人の無料招待を目指して朝早くから集まった多くの小学生や、高校サッカーファンから嘆息が漏れた。

 この日は朝から雪が降り続け、首都圏は7年ぶりの大雪。主催者側の想定を超えた悪天候によって、全国高校サッカー選手権決勝・鵬翔(宮崎)vs.京都橘(京都)の一戦は、19日に順延されることになった。過去には第67回大会の開催期間中、昭和天皇の崩御によって準決勝と決勝の日程が順延されたことがあったが、悪天候による順延は、首都圏開催となって以降は初のこととなった。

 異例の事態からの仕切り直しとなる決勝戦。一番の大きなポイントは、当然ながら試合間隔の変化だ。当初は12日の準決勝から中1日で行われるはずのところが、丸1週間も試合間隔が空くこととなった。その“プラス4日”を与えられた2校のとった調整方法は対照的だ。京都橘は関東圏内に滞在するミニ合宿を行い、逆に鵬翔は地元・宮崎に戻って、学校生活を送りながら練習することとなった。

 5日の準々決勝から準決勝までの1週間のインターバルでも、京都橘は地元に帰らずにミニ合宿、鵬翔は地元・宮崎に戻るという対応をとった。予期せぬ順延という2度目のインターバルを受けた両校の“選択”にどんな意図があるのか、検証してみたい。

京都橘の手負いの2トップ、怪我からの回復は間にあうのか。

 まずは地元に戻らない選択をした京都橘。選手たちの集中を切らせないという狙いだけではなく、それ以上に今大会で計9得点を挙げている2トップ、小屋松知哉(5ゴール)と仙頭啓矢(4ゴール)のケガの状況を踏まえてか、東京-京都間の往復移動でかかる負荷を軽減した点は見逃せない。

 準決勝前に書いた原稿でも取り上げた小屋松だが、今大会は満身創痍の状態で戦っていた。1回戦・正智深谷(埼玉)戦では1ゴール1アシストをマークしたものの、左足ふくらはぎを負傷。他にも右ひざや腰にも痛みを抱えていて、万全の状態とは言えない。

 また、小屋松にラストパスを配球するだけでなく、得点能力にも優れる仙頭も左ひざに不安を抱えている。1週間で完治するかは微妙とはいえ、試合間隔が空いたことは決してマイナスではない。

 チーム全体としては準決勝の桐光学園(神奈川)戦で見せたような、素早い攻守の切り替えと鋭いカウンターを軸に戦うことが予想される。J2京都でプレーする宮吉拓実を兄に持つMF宮吉悠太ら、2トップを支える選手たちにも多くの運動量が求められるため、コンディションとしては当初の14日に行うよりも上向きで臨めるはずだ。

鵬翔が、メディアの少ない地元に一旦帰った理由。

 一方で鵬翔が宮崎に帰ったのは、普段の生活を送ることで選手に過緊張させない環境を求めただけではない。

 最大の得点源となっているセットプレーの再構築と、宮崎県大会決勝、そして今大会に入っても5試合中3試合で勝利したPK戦まで見据えた戦略をじっくりと組み立てるために、関東に比べて集結するメディアが少ない地元を選んだ部分もあるだろう。

 今大会で鵬翔が挙げた全得点は8。そのうち5点、それも準々決勝、準決勝のすべてのゴールがセットプレー絡みである。こちらも中心選手であるスピードスター、MF中濱健太が宮崎県予選でひざを負傷してしまい、スタメン出場が叶わない中でも勝ち上がった最大の要因だ。

高さはさほどなくても、ターゲットとキッカーが揃う鵬翔。

 準決勝・星稜(石川)戦では先制を許したものの、前半30分にMF小原裕哉が低く鋭い軌道で直接FKを叩き込む。再びリードを許した直後の後半38分には、右サイドのハーフライン上からのFKで放り込まれたボールを落とすと、MF東聖二がいち早く反応して同点弾を叩き込んだ。準々決勝・立正大淞南戦(島根)では、前半30分にFKのロングボールをDF原田駿哉がヘッドで競り勝って先制ゴールを奪うと、前半36分にはCKのこぼれ球を柏田崇走、後半13分にはFKから芳川隼登が決めて3点を奪った。

 主力として出場する選手の中で、身長が180cmを超えるのは原田とFW澤中拓也のみだが、跳躍力のある芳川(178cm)もいるためターゲットは多い。また、鋭く曲がるカーブでピンポイントを狙う小原、そして左利きのDF日高献盛とキッカーもそろっているため、相手としては非常に的が絞りづらい。小屋松と仙頭の2トップを擁する京都橘に比べた際、個の力で得点を奪うチームではないだけに、情報が伝わりづらい宮崎での最終調整を選んだのも当然と言える。

大雪による順延を味方につけることができるのはどちらか?

 セットプレーに冴えを見せる鵬翔に対して、京都橘はスタメンが予想されるメンバーの中で、身長が180cmを超えるのはGK永井建成(183cm)だけ。桐光学園戦でも途中出場した190cmのFW文字大樹が高さ対策として投入される場面が早まる可能性もある。

 看板の2トップに回復する期間が与えられた京都橘か、大会中にセットプレーに磨きをかけた鵬翔か。想定外の大雪となったが、2校は戦略的な仕切り直しを経て、19日12時5分、聖地・国立でのキックオフの笛を待つ。

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