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【高校選手権】京都橘の強力2トップ、仙頭・小屋松が育った背景を考える

12月30日から熱戦が繰り広げられてきた第91回高校サッカー選手権も14日の決勝を残すのみとなった。そのカードが鵬翔(宮崎)対京都橘(京都)になると予想できた者は皆無に等しいだろう。ユース関係に詳しい取材者でさえ、両チームの躍進は予想できなかったはずだ。

小屋松知哉(2年)とともに京都橘をけん引してきた強力2トップの一角を占める仙頭啓矢(3年)も「京都の大会では2トップでかき回すこともあったけど、全国大会でここまで勝ち上がったことがないので、自分たちがどこまでやれるか全く分からなかった。毎試合毎試合が未知の世界」と驚き半分で語っていた。

前回準優勝の四日市中央工(三重)の2年生2トップ・浅野拓磨(広島内定)と田村翔太(湘南内定)が得点王争いをして見る者を驚かせるインパクトを残したように、選手権では全く無名だった選手がスターダムにのし上がることがしばしば起こる。注目度の高い大会だからこそ、選手たちも俄然モチベーションが上がるのだろう。

その仙頭と小屋谷だが、仙頭は小学校の時はガンバ大阪門真スクールに通っていて、中学時代はFCグリーンウェーブという四条畷の町クラブでプレーしていたという。小屋松も久御山バイソンズFCから宇治FCのジュニアユースに進み、京都橘へやってきた。仙頭によれば「グリーンウェーブと橘の監同士が知り合いだったし、僕のやりたいボールを大切にするサッカーをやっていたので選んだ」と話す。

小屋松も「米澤(一成)監督が声をかけてくれたのが大きかった」と言う。京都周辺にはJクラブも強豪校も多く、有望選手を集めるのは簡単なことではない。米澤監督は京都橘を2001年の創部からわずか10年余りで強豪に育てると同時に、関西地域のジュニアユース年代の指導者やクラブと地道にネットワークを作り、可能性のある選手を送ってもらえるような関係を築いた。38歳と高校サッカー界では若い方に入る監督だが、なかなかのやり手であることは間違いない。

その京都橘だが、特筆すべきなのが恵まれない練習環境だ。「学校のグランドでサッカー部が使えるのは200mトラックの半分。25×35m四方くらいのスペースしかない。他のグランドが取れたらそこでやるけど、普段はそういう環境です。部員は90人以上いるので、チーム分けして時間で回すなど工夫をしています。ピッチはもちろん土。そういう環境でもいいと言ってくれる子しか来てくれない」と米澤監督も申し訳なさそうに語っていた。

それを覚悟で入学した小屋松は「Jとは全然違う環境だと思うし、難しい部分もあるけど、そこでやるしかない。監督はああしろこうしろとは言わないし、自由に考えてやらせてくれる。それが自分たちにはすごく合っていると思う」と言う。仙頭も「人工芝より土の方がボール扱いも難しいんで、そこで練習して自信がついたし、いい環境でやれる時に感謝の気持ちも持てるようになった。すごくハングリーになりました」と話す。彼らが身に着けた逞しさとハングリー精神は今大会で遺憾なく発揮されているようだ。

Jリーグが発足して今年で丸20年が経過するが、日本のプレー環境は劇的に改善された。かつて冬の時期にはスタジアムの芝生は枯れて真っ白になるのが普通だったのに、今では1年中、青々とした芝生が美しく整備されている。Jクラブも大半が天然芝の練習場を持ち、下部組織も人工芝が当たり前になっている。高校レベルでも強豪校は人工芝を保有するところが多い。

しかしながら、こうしたハード面がよくなればなるほど、選手たちは全てが整っているのを当然と考え、予想外の環境への対応力を持たなくなる。ロンドン五輪を戦った関塚隆監督率いる代表の選手たちもアジア予選の間、「ピッチが悪くてボールが収まらない」と頻繁に口にしていたし、昨年11月のAFCU-19選手権(UAE)で敗退したユース代表の選手たちも芝生の状態に不満をもらしていた。韓国ではパジュのナショナルトレーニングセンターにわざとドロドロのピッチを作る話が出ていると耳にしたが、京都橘の強力2トップのボールコントロール力と貪欲さを見ていると、そういう工夫も必要かもしれないとさえ思えてくる。

決勝の行方は現時点では分からないが、勝っても負けても大事なのは彼らのこれからのサッカー人生だ。選手権でこれだけ名を売れば注目度は飛躍的に高まる。そんな中でもこれまで通りのハングリーさ、泥臭さを持ち続けていられれば、彼らは面白い化け方をするかもしれない。まずは決勝、そして今後の彼らの飛躍に注目したいものだ。

【Jsports】